プ ロ グ ラ ム
 

 1 フェルナンド・ソルの音楽
     モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲
     スペインのフォリアによる変奏曲
     エチュード ロ短調「月光」
 2 フランシスコ・タルレガの音楽
     ラグリマ
     アルハンブラの思い出
     ソナタ 「月光」より 第1楽章          L.V.ベートーヴェン
 3 ミゲル・リョベートの音楽
     ソルの主題による変奏曲より「インテルメッツォ」
     盗賊の歌
     ソナタ 「月光」より 第2楽章          L.V.ベートーヴェン
 4 アグスティン・バリオスの音楽
     メヌエット ト長調                 L.V.ベートーヴェン
     郷愁のショーロ
     タルレガの「ラグリマ」による変奏曲
 5 イギリスのギター音楽
     来たれ深き眠り                  J.ダウランド(小山勝 編)
     カタロニア民謡「盗賊の歌」による変奏曲   W.デュアート
     ノクターナル                    B.ブリテン
 6 W.A.モーツァルトの音楽
     私は鳥刺し
     おお妙なる鈴の音
     きらきら星変奏曲 
曲目解説                                 高橋 望
フェルナンド・ソルの音楽
  
フェルナンド・ソルはベートーヴェンと同時期に活躍し、ギターの名手であるにとどまらず、管弦楽や舞台作品も創作するなど広い音楽の視野から高い芸術性をこの楽器で実現しようとした。<モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲>はソルの代表作で、モーツァルトの音楽の優雅さとギターの多彩なテクニックが見事に結びついた傑作。<スペインのフォリアによる変奏曲よりメヌエット>は、スペインの古い旋律に基づく<変奏曲>の最後に演奏される愛らしい舞曲である。<エチュード・ロ短調「月光」>は単純なアルペジオながら、味わいある深みをたたえている。

フランシスコ・タルレガの音楽
  
フランシスコ・タルレガは、ソルの時代以降、ピアノや管弦楽の影に隠れた存在だったギターの美しさを再び人々に知らしめた。音量こそ小さいが、デリケートな<ギターの音>でしか得られない数々の小品を作曲した。可憐な前奏曲<ラグリマ(涙)>、グラナダの古城をしのんだ<アルハンブラの想い出>はその美しい結晶の一つである。また、タレガは大作曲家の作品を数多くギターに編曲し、その音楽の精神をギターの弦上に伝えようとした。その中からベートーヴェンの<ピアノ・ソナタ「月光」第一楽章>が演奏される。

ゲル・リョベートの音楽
  
ミゲル・リョベートはタレガの教えを受けたギタリスト。SPレコードに録音が残されている。<ソルの主題による変奏曲よりインテルメッツォ>は、ソルが書いた<スペインのフォリア>に新たな変奏を連ねたもので、<インテルメッツォ>はそこに挟まれるロマンティックな断章。<盗賊の歌>はリョベートの作品中最も良く知られたカタロニア民謡を素材にした小品集の一曲で、処刑を前にした義賊が歌う惜別のひと節である。リョベートも数々の編曲を試みたが、ここでは<ピアノ・ソナタ「月光」第二楽章>。すなわち既にタレガ編で聴いた続きの楽章が選ばれた。

アグスティン・バリオスの音楽
 
 ソル・タレガと続くスペイン・クラシックギターの流れはリョベートらによって南米へも伝えられ多くの名手を輩出している。その先駆けをなすアグスティン・バリオスはパラグァイのギタリスト。人種的偏見にその評価が歪められてきたことなど伝説的逸話もいくつかあるが、80年代になり急速な人気の高まりとともにようやく実像が詳しく伝えられるところとなった。ベートーヴェンの小品を編曲した<メヌエット・ト長調>、自身のオリジナルからやるせないムードをただよわせた<郷愁のショーロ>、そしてさきの<ラグリマ>をテーマに用いた<タレガの主題による変奏曲>が演奏される。

イギリスのギター音楽
  
現代を代表するギタリスト、ジュリアン・ブリーム、ジョン・ウィリアムスを生んだイギリスは、スペインとは異なる独自のギター音楽の世界を成している。ジョン・ダウランドは宮廷音楽の花形だった楽器<リュート>の名手。<来たれ深き眠り>をはじめ優雅な作品はギターで演奏されることも多い。ジョン・ウィリアム・デュアートはギターの機能を熟知した研究家で、<カタロニア民謡による変奏曲>はリョベートの<盗賊の歌>を主題に、当時17歳だったジョン・ウィリアムスのために華麗な作品に仕上げられた。ベンジャミン・ブリテンがジュリアン・ブリームの依頼で作曲した<ノクターナル>は、20世紀ギター音楽の最高傑作に挙げられる。夜の幻想や不安、夢のあこがれが綴られていくが、執拗な旋律を繰り返す最終楽章<パッサカリア>の後、静寂から聴こえてくるのは、さきに演奏された<来たれ深き眠り>である。

W.A.モーツアルトの音楽
  
モーツァルトの音楽をギターで表現するのは難しく、本日最初に演奏されたソルの<モーツァルトの魔笛の主題による変奏曲>はモーツァルトとギターを最も結びつけている作品かもしれない。その歌劇<魔笛>から、新進ギタリスト佐藤弘和の編曲によるパパゲーノのアリア<私は鳥刺し>、ソルが<変奏曲>に用いた主題を今度は原曲に近いかたちに編曲したテノールとバスのための重唱<おお妙なる鈴の音>が演奏される。演奏者・石村 洋がピアノから編曲した<キラキラ星変奏曲>はおそらく初めてギターでとりあげられるもの。主題は少女の恋を歌ったシャンソン<ああお母さんあなたに申しましょう>で、そのシンプルなテーマと裏腹にギターにとって12の変奏は過重なテクニックが負わされる。このような新しい編曲が登場するのも、近年のギターの演奏技術の進歩、そしてソルの昔からモーツァルトの音楽を演奏することがギタリストの高い目標であることを示しているといえるだろう。
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