フルート アンド ギター デュオ
第33回 定期演奏会

Flute and Guitar Duo:平田公弘(F)、石村洋(G)

 バッハ、ベートーヴェン、シューベルトの画像
省   略



2007年1月21日14:00開演
狭山市民会館

主催・問合せ:フルートとギターの会
石村(04-2959-4112)平田(04-2959-7583)



 

ご あ い さ つ

  本日はフルート・アンド・ギター・デュオ定期演奏会にご来場いただき、有難うございます。心から御礼申し上げます。
 開催回数33回目とはいっても、一昨年まで、ごくプライヴェートな空間で行ってきたものを、狭山市民会館という公共的な会場に移して、今回でやっと2回目です。そのため、不慣れなことも多く、広報活動等も不充分なままで、色々ご迷惑をおかけしております。皆様からのご助言、ご助力などいただけましたら幸いです。
 ところで、プログラムの表紙には、取分けて偉大な3人の作曲家、バッハ、ベートーヴェン、シューベルトの肖像画が載っています。この3人は音楽を愛する人々が憧れ、勇気付けられ、目標にしてきた人々です。今回は、この3人の作曲家を正面から取り上げたいと思います。それは、私達が目標に少しでも近づいたからなどということではなく、第2回という回数に相応しく初心に立ち返り、少しでも音楽の最良の場所へ向かって歩みをすすめて行きたいからです。
                       フルート・アンド・ギター・デュオ
                                              石村 洋   平田公弘 

プ ロ グ ラ ム

ソナタ ホ短調 BWV1035

J.S.バッハ

第1楽章 アダージョ マ ノン タント

第2楽章 アレグロ

第3楽章 シチリアーノ

第4楽章 アレグロ・アッサイ

ロマンス ヘ長調 Op50

L.V.ベートーヴェン

セレナーデ Op99

A.ディアベッリ

第1楽章 アレグロ モデラート

第2楽章 テンポ ディ メヌエット

第3楽章 行進曲

<< 休  憩 >>

夜は紫紺色に明けて

福士則夫

 

木々の隙間を抜ける風のように〜魔の棲む森へ〜
に星たちは落ちて〜深く重く霧は川面を覆い〜
夜は紫紺色に明けて〜鳥たちの朝〜草原への道〜憩う

6つの歌曲 より

F.シューベルト

 おやすみ、菩提樹、セレナーデ

アルペジョーネソナタ

第1楽章 アレグロ モデラート

第2楽章 アダージォ

第3楽章 アレグレット


 


曲 目 解 説                石村 洋

ソナタ ホ短調 BWV1035 J.S.バッハ(1685-1750

 バッハのフルート独奏とチェンバロ伴奏のためのソナタは全部で7曲ありますが、フルート・アンド・ギター・デュオでは、現在、そのすべての演奏を目指して準備を進めています。いつか全曲まとめて演奏できる機会が持てることを念願しています。
 バッハの作品は現代のモダン・フルートといわれる楽器で演奏しても技術的に容易ではないのですが、当時の単純な機構の横笛でこれらのソナタを演奏した笛吹きがいたことは驚くべきことです。
 この曲はフルートと通奏低音のための作品で、教会ソナタの様式である緩−急−緩−急の4つの楽章から構成されています。



ロマンス ヘ長調 Op50 L.V.ベートーヴェン(1770-1827)

 オリジナルはヴァイオリンとオーケストラのための作品です。ロマンスという曲はほかに第1番ト長調というのもあるそうですが、私はその曲を聴いたことがありません。ギター伴奏だけで演奏するには本来、無理があるのかも知れませんが、ギタリストの永塚節さんの好編曲のおかげで、十分に鑑賞に堪えるものとして、ベートーヴェンの音楽を演奏できることは喜びです。

(右写真は、比較的近年に発見された13歳頃のベートーヴェンの肖像)

セレナーデ Op99            A.ディアベッリ(1781-1858

 ディアベッリは今日、たいして問題にされることのない人物なのですが、19世紀前半のウィーンの音楽界を語る上では大変重要な人物ではなかったかと思います。ヨーゼフ・ハイドンの実弟のミハイル・ハイドンに師事して音楽を学び、ピアノ教師、ギター教師をしていましたが、本領は楽譜の出版業者として活躍したことにあります。現在その名前を私達が思い出すのはベートーヴェンの晩年の傑作「ディアベッリの主題による変奏曲」によってだと思います。この曲は、ディアベッリが自作のワルツを主題とする変奏曲を、ウィーンに在住した50人余りの作曲家に委嘱して、寄せられた作品の一つです。その時作曲された作品は、ベートーヴェンのものを含め80曲余りにもなるそうですが、近年それを全曲録音したというピアニストがいるらしく驚きです。
 ギター作品も多く残っていているようですが、ギター作品群の全容は未知の領域です。いくつかの作品は、技術的レヴェルも高く、内容も面白いものが少なくありません。ギタリストとして、今後ディアベッリ作品の研究と出版が進んでくれることが待たれます。



夜は紫紺色に明けて       福士則夫(1945-

 福士氏は日本現代音楽協会の会長も勤められる作曲家。
 楽譜は、9ページに渡って切れ目無く譜面が書かれていますが、明らかに曲想の違う8つの部分から出来ています。それぞれの部分の始めには、プログラムにあるように、日本語で何かの物語を思わせる言葉が書かれています。1992年、草津音楽祭での委嘱作品で、作曲者はこの作品について「自ら歩いた思い出と、自然への畏敬や憧憬に寄せた8つの部分からなる山への賛歌」と表現しています。

 
 
 

6つの歌曲 より        F.シューベルト(T.ベーム編曲)

おやすみ、菩提樹、セレナーデ

 この歌曲集に関しては、原作者のシューベルトよりも編曲者のテオバルト・ベームに着目して頂きたいと思います。金属細工師だったベームは、それまでどちらかというと地味な存在だったフルートを改良し豊かな音量、明るい音質、すぐれた演奏機能をもった新しいフルートを開発しました。モダン・フルートの原型ベーム式フルートです。
  一流のフルート奏者で、作曲の才能もあったベームは、そうして改良されたフルートに相応しいレパートリーを自ら作曲したり編曲したりもしました。何しろそれまで地味な存在だったフルートにはバッハとモーツァルトのいくつかの作品以外には、めぼしい作品が無かったからです。この歌曲の編曲もそうした作品の一つです。ベームの努力の結果、まずドビュッシーやラヴェルなどフランスの作曲家たちがこの楽器に魅せられ、今日では管楽器の女王とでも言うべき最も人気の高い楽器になりました。

アルペジョーネソナタ      F.シューベルト(1792-1828)
 フルートにおけるベームのようにモダン・ギターというに相応しい改良を施した製作家をアントニオ・トーレスといいます。しかし、近年ギターの世界でもトーレス以前の古いもの、ルネサンス・ギター、ビウェラ、バロック・ギターなどの古楽器といわれるものに注目が集まっていますが、さらに時代は下って19世紀ギターというものも着目されるようになりました。19世紀ギターの製作者で、最近よく耳にする名前にウィーンにいたシュタウファーという人物がいます。
 このシュタウファーこそが、アルペジオーネという今では博物館だけでしか目にすることのない、チェロとギターをあわせたような楽器の発明者でした。実は私がシュタウファーの名前を耳にしたのはアルペジオーネの発明者としての名前でした。古いギター製作者としての名声の方は、19世紀ギターに詳しい私の友人、森淳一さんから最近聞いたばかりです。
更に、アメリカのフォークギターで有名なマーチンの初代は、シュタウファー工房で、ギター制作を学んだ人です。そこから、今日のアメリカから生まれた、ギブソンやフェンダーの現代のエレキギターの元となったことを思うと、まさに、アルペジオーネ死すともシュタウファー死せず。ですね。

ここでもう一度ディアベッリが登場します。ギタリストでもあったディアベッリはシュタウファーとも親交があったのでしょう。新発明のアルペジオーネのために、ディアべッリ奏曲の時と同様、ウィーン中の作曲家に作品を依頼しました。そうして生まれたのが、今日チェロとピアノで演奏されることの多い「アルペジョーネ・ソナタ」です。ですので、ディアベッリは2つの得がたい名曲の誕生に積極的に関った人物としてももっと高く評価されても良いのではないでしょうか。